Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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夕凪

何かに
取り憑かれたように

高揚する気分と
恍惚とした感覚の中で

一週間ほどが経った

嵐が去ったあと
猛然と降り注ぐ憂鬱は

純然たる敵意を持って
僕の感情を踏みつけ

「何もしない」 という
選択肢以外

僕には選ぶことが
できなくなってしまう

そんなことを

これまでに何度
これからも何度となく

繰り返しながら

僕の心と、感情
時間と人生の大部分が

意志も持たないままに
一人歩きして

僕はそのたびに

「誰か」 との
一体感を体得しては

改めて
「ひとり」 を痛感する

そんな繰り返しの中
淡々と時を浪費してゆく

弱音を吐くほど

甘えて生きられるような
歳でもないのに

そう思いながら
秒針の音を拾う夜

大丈夫
僕は、まだ行ける。

はなむけの言葉

部屋を隅々まで
埃を払いながら掃除したら

中学生の頃

転校することになった僕に
クラス全員からもらった

色紙が何枚か出てきた

人に流されないで
いつまでも優しくいて下さい

生徒会長ごくろうさま

などと、丁寧に
励ましてくれる女子たち

一番に話しかけてくれた
君を失うのは寂しい

向こうの学校でも
女ったらしで頑張れよ

などと、冗談交じりに
元気づけてくれた男子たち

片付けの手を止めたまま

読み切れないほどに
書き綴られたメッセージを

僕は一つずつ
丁寧に読み返して

自分とはいったい
どんな人間なのか

これだけの好意と
激励を贈られた人物が

本当に僕であったのか

そんな半透明の疑問が
一瞬、頭をよぎり

目を閉じたまま

例えようのない感情に
涙が止まらなかった

転校する季節
最後に付き合っていた人は

いつまでも思いやりのある
人でいてください

そう書いてくれていた

彼女が僕に
告白してくれたきっかけは

教室で育てていた花に
僕がこっそり水をやっていたとか

そんなことだったと思う

思いやりのある 「僕」 を
好きになった少女は

二十年後
荒んだ生活を送る僕に

目から鱗が落ちるような
思いやりを与えてくれた

彼女がどうして
「僕」 を好きになってくれたのか

こんな優しさを

受け取る資格のある自分が
どんな自分だったのか

少しだけ
思い出せた気がした

いつでも、今が出発点

空回りしてばかりの心に
道標を、ありがとう。

幸せの轍

部屋を片付けているうちに
今日が、昨日へと変わった

普段はクローゼットの奥で
眠っているたくさんの箱を

開けるたびに、時が戻る

恋人と遊びに行った場所で
受け取ったレシートの山は

コンビニの飲み物まで
記念に束にしてあった

その前の恋人は

一緒にゲームをするために
二人で選んだコントローラー

その前の人は、年賀状と
宅急便の伝票の束

部屋を訪ねた帰り
折からの雨に降られて

借りたまま
僕専用になっていた傘

反対に

僕の部屋に忘れていった
別の恋人の傘も出てきて

何から何まで
大切に残してある笑顔の証に

すっかり囲まれてしまって
とても片付けるどころではない

別れたたくさんのひとは
元気にしているだろうか

僕と居た頃よりも
幸せに過ごしているだろうか

そんなことを思って
胸が、少し苦しくなり

涙が滲んでへたり込む

本当に好きだったんだ
こんなにも愛されたんだ

幸せの轍は
うれし涙に変わって

時を浪費するだけの僕を
優しく戒める

今日も、笑おう

未来の自分へ
大切な笑顔の記憶を

届けるために。

remember me

ここ数年間
一分一秒ごと冷酷に

流れ落ちる
シャワーのように

追いつけないほどの
強さと速さで

成長し、変貌し
人生を築く人たちの姿に

僕はただ
焦りばかりを募らせてきた

三十年間

信じ続けてきた
たくさんの信頼関係と

友人と、自信とを失い

それが崩れていく
その恐怖から逃れるために

自分と他人とを
見境なく傷つけ、藻掻き

気がつくと
もう取り返せないほどに

僕の心の拠り所は
崩れ落ちてしまった

「もう一度、歩き出す」

ただ、それだけのことが
とても不安で、恐ろしくて

夜毎、悪夢を見る

消えてしまいたい
まだ、消えたくない

まだ
忘れ去られたくない。

ふりゆくもの

日々
疎外感と異様な高揚感を

持て余しながら

眺める湿度の高い夜は
「独り」が突き刺さる

この部屋で、この街で
この国のどこかで

何人もの人に認められ
信頼され、愛されてきた

そのすべてを

ことごとく裏切り
失望感と憤慨だけを残し

ひとり卑屈に隠れている
そんな心持ちになる

街中が
バレンタインで賑わう中

何ひとつ
可笑しくない振りをする僕は

そろそろ、晩年に
差し掛かったのかもしれない

被害妄想、誰かの善意
表層的な繋がり、計算された嘘

焼きが回ってしまった僕に
それを捌き切る精神力は

もう、残っていない

窓の外に耳を傾ける僕には
秒針の音だけが聴こえた。

「僕」の証明

何か、書こう
そう思った

けれど

何を書いていいか
悩んでしまった

頭が回らないときは
いつも同じ

淡々と過ぎゆく
今日という一日を

淡々と叙述しても

無味乾燥な
ただの記録になる

そんな
言い訳めいた理由で

記事を一日
また一日、さらに一日と

伸ばしていく

自分のブログだから
気楽にやればいい

優しい友達は
そう言ってくれるけれど

ここは、最後の砦

現実を追われた僕は
書き続けなければ

消えてしまう

そう書いた文章を
ちらりと目で読み返し

思わず、息を呑んだ。

休日の朝

玄関のドアの音に
目を覚まし

半分寝呆けたまま
部屋を眺める

昨夜

コンビニで買い込み
食い散らかした弁当の

残り物を見て
死にたいと、思う

気晴らしに
歌を聴いてみれば

別れた恋人たちの
今のしあわせが気掛かりで

ぼんやり天井を眺め
少しだけ、寂しくなる

布団に潜り
寝直す振りをしても

出るのは、溜息

どうして僕は
こんなになっているんだろう

どうして僕は
誰の人生とも合流できず

根無し草のように

ひとり
空回りしているんだろう

涙が、滲んだ

何の変哲もない
土曜日の朝なのに

こんなに温かい
布団の中なのに。

万華鏡

淋しい、と

過食の衝動に負けた
弱い僕が

振り返って言う

そこには
もう一人の僕がいて

そのとき初めて
自分が淋しいのだと

気付く

二人目の僕は
振り返って言ってみる

淋しい、と

そんな風に
幾重にも連鎖した

万華鏡のような
終わりの無い淋しさに

僕はもう
組み込まれてしまった

今日はお早いですね
いつも有り難うございます

少し年上の
見慣れた女性店員の声が

寒空の下

いつまでも
頭から離れない

いつかの僕へ

僕は別に
淋しくなんかない

君は決して
孤独ではない

そんな言葉が
空回り、氷点下

この気持ちも
雪と共に

解けてしまえば
いいのに。

ぽつり、夜

ひとり
天井を眺める夜は

特に理由も無く
淋しさばかりが募る

やりきれず起きだし
紅茶に少し口を付け

デスクトップに
雑然と保存されている

書き散らかした
草稿を開いては閉じ

また開いては、閉じ
ひとつも形にならず

やっぱり駄目だ、と
ふてくされたりする

気持ちが沈む日は
書き物など

できたものではないし

無理矢理に
書き上げたところで

人の心になど
響くわけがない

孤独と対峙する
静かな真夜中の部屋

ヘッドホン越しの
優しい音楽だけが

僕と世界を
辛うじて繋いでいる

そんな気がした

恋しい、侘びしい

たとえそんな感情が

何の意味も価値も
持たないような

感傷であるとしても。

時限爆弾

僕が
生身の人間と話すのは

食事の
お会計をする時だけだ

そう書いたら

随分と寂しく
侘びしい生活のように

聞こえるかも知れない
けれど

実際、そうでもない

子供の頃から
勤め人を降りるまで

僕は人間というものが
大好きだった

それぞれの人に
変わった個性があり

そのどれもが
好意的に感じられた

しかし
状況は、変わったのだ

今の僕は、たとえ
ネット越しであろうと

人と話すこと
関わること恋すること

何もかもが、怖い

中途半端に手を出しては
尻尾を巻いて逃げ出す

その繰り返しで
随分、人脈も失った

僕が

「もう笑わない」 と
書いたのは

誇張でも何でもない
ごく当然の成り行きで

ヘラヘラと
愛想笑いを振りまく僕に

本当の笑顔など
もう残ってはいないのだ

生きることに
疲れた中年の姿

人からは
どう見えているだろうか

僕と親しくなる人は
笑わない僕を知るだろう

そして

僕を笑わせることは
二度とできないのだと

あきらめて
心を痛めることだろう

だから誰も求めない
だから誰も寄せ付けない

カチカチと
音を立て始めた時限爆弾に

見せかけの善意や
偽善や独善的な愛情で

しがみつくもんじゃない

気がついたときには
僕と一緒に粉々だ。