Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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記事一覧

成功と錯覚

成功とは、何かを実現するための
一つの通過点に過ぎない。

仕事も学問も健康も、恋愛も結婚も子育ても、
それを成功させた先で何を実現したいのかが重要であり、

成功することそのものが目的になってしまったとき
人間は輝きと自身の方向性を見失う。

夕凪

何かに
取り憑かれたように

高揚する気分と
恍惚とした感覚の中で

一週間ほどが経った

嵐が去ったあと
猛然と降り注ぐ憂鬱は

純然たる敵意を持って
僕の感情を踏みつけ

「何もしない」 という
選択肢以外

僕には選ぶことが
できなくなってしまう

そんなことを

これまでに何度
これからも何度となく

繰り返しながら

僕の心と、感情
時間と人生の大部分が

意志も持たないままに
一人歩きして

僕はそのたびに

「誰か」 との
一体感を体得しては

改めて
「ひとり」 を痛感する

そんな繰り返しの中
淡々と時を浪費してゆく

弱音を吐くほど

甘えて生きられるような
歳でもないのに

そう思いながら
秒針の音を拾う夜

大丈夫
僕は、まだ行ける。

はなむけの言葉

部屋を隅々まで
埃を払いながら掃除したら

中学生の頃

転校することになった僕に
クラス全員からもらった

色紙が何枚か出てきた

人に流されないで
いつまでも優しくいて下さい

生徒会長ごくろうさま

などと、丁寧に
励ましてくれる女子たち

一番に話しかけてくれた
君を失うのは寂しい

向こうの学校でも
女ったらしで頑張れよ

などと、冗談交じりに
元気づけてくれた男子たち

片付けの手を止めたまま

読み切れないほどに
書き綴られたメッセージを

僕は一つずつ
丁寧に読み返して

自分とはいったい
どんな人間なのか

これだけの好意と
激励を贈られた人物が

本当に僕であったのか

そんな半透明の疑問が
一瞬、頭をよぎり

目を閉じたまま

例えようのない感情に
涙が止まらなかった

転校する季節
最後に付き合っていた人は

いつまでも思いやりのある
人でいてください

そう書いてくれていた

彼女が僕に
告白してくれたきっかけは

教室で育てていた花に
僕がこっそり水をやっていたとか

そんなことだったと思う

思いやりのある 「僕」 を
好きになった少女は

二十年後
荒んだ生活を送る僕に

目から鱗が落ちるような
思いやりを与えてくれた

彼女がどうして
「僕」 を好きになってくれたのか

こんな優しさを

受け取る資格のある自分が
どんな自分だったのか

少しだけ
思い出せた気がした

いつでも、今が出発点

空回りしてばかりの心に
道標を、ありがとう。

幸せの轍

部屋を片付けているうちに
今日が、昨日へと変わった

普段はクローゼットの奥で
眠っているたくさんの箱を

開けるたびに、時が戻る

恋人と遊びに行った場所で
受け取ったレシートの山は

コンビニの飲み物まで
記念に束にしてあった

その前の恋人は

一緒にゲームをするために
二人で選んだコントローラー

その前の人は、年賀状と
宅急便の伝票の束

部屋を訪ねた帰り
折からの雨に降られて

借りたまま
僕専用になっていた傘

反対に

僕の部屋に忘れていった
別の恋人の傘も出てきて

何から何まで
大切に残してある笑顔の証に

すっかり囲まれてしまって
とても片付けるどころではない

別れたたくさんのひとは
元気にしているだろうか

僕と居た頃よりも
幸せに過ごしているだろうか

そんなことを思って
胸が、少し苦しくなり

涙が滲んでへたり込む

本当に好きだったんだ
こんなにも愛されたんだ

幸せの轍は
うれし涙に変わって

時を浪費するだけの僕を
優しく戒める

今日も、笑おう

未来の自分へ
大切な笑顔の記憶を

届けるために。

質問者

質問の言葉には、
質問者の願望と意図が露骨に反映される。

質問に対して肯定して欲しければ
肯定文を疑問形で投げるだろうし、

肯定の返事を望まないときには
無意識のうちに否定文をそのまま質問にする。

話しかけ方、用いる修飾語、声のトーン、

その質問に含まれるあらゆる要素が、
質問者の「欲しい答え」を描き出す。

均衡

安定を保つことと、停滞していることは全く違う。

均衡を保つためには
均衡を崩す力も時には必要であって、

バランスを取るためには、

どの程度揺らせば何が崩れるのかを把握する、
鋭い感受性が必要不可欠だ。

ホワイト・バレンタイン

想いを 口に出来ず
今年も 貴方と一緒に
恋が行き交う 窓の外を
眺めて 話し込んだ

二人 帰る途中で
寄った 駅前のコンビニ
開く自動ドア 貴方の背中
私は 心を決めた

私も 買ったら出るよ
少しだけ 外で待っててね
袋のままで 俯きながら
差し出す 安いチョコレート

「これ、あのね」

言葉に 詰まったまま
泣きそうな私に 貴方が
いつもと同じ 優しい目で
笑いながら 答えてくれた

「大好きだよ」

ここで 二人で食べよう
泣き出した 私の両手に
チョコの箱を乗せ 照れながら
ポツリ 貴方が言った

「記念日だよ」

友達のままでも いいと
諦めかけていた 私に
思いもせず 舞い降りてきた

最高の バレンタイン
貴方らしい ホワイトデー

あのね、大好きだよ。

remember me

ここ数年間
一分一秒ごと冷酷に

流れ落ちる
シャワーのように

追いつけないほどの
強さと速さで

成長し、変貌し
人生を築く人たちの姿に

僕はただ
焦りばかりを募らせてきた

三十年間

信じ続けてきた
たくさんの信頼関係と

友人と、自信とを失い

それが崩れていく
その恐怖から逃れるために

自分と他人とを
見境なく傷つけ、藻掻き

気がつくと
もう取り返せないほどに

僕の心の拠り所は
崩れ落ちてしまった

「もう一度、歩き出す」

ただ、それだけのことが
とても不安で、恐ろしくて

夜毎、悪夢を見る

消えてしまいたい
まだ、消えたくない

まだ
忘れ去られたくない。

自己肯定

人間、世界にたった一人でもいいから、
無条件に自分のことを認めてくれる存在が必要だ。

幼少時代は母親、
青年期には友人や恋人がいる。

しかし、大人になったときには、
それは 「自分自身」 でなければならない。

火薬と人心

花火職人は、
火薬が爆発することを知っていなければ、

安全に花火を作ることはできない。

それと同じように、人間もまた、
信頼が憎悪に簡単に変わることを知っていなければ、

他人と良い信頼関係を保つことはできない。