Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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二人の日々

もしも貴方が 消えて
一人で空に 向かって
大きな声で その名を呼んで
罪のない涙を 流したら

もしも私が 消えて
貴方ひとりが 残って
それでも今と 変わらぬ日々が
ただ蕩々と 続いたら

幸せは ここにあるよと
それでも 夏空は光るかな

柔らかな手を 延べては笑う
二人の日々が 永遠になる

希望なら 許しなら
いつも貴方の言葉に 宿っていた
これ以上 何に甘えて
私は貴方を 汚すのだろう

安らぎも 温もりも
与えられるままに 手にしてきた
これ以上 何を求めて
私は私を 汚すのだろう

ふらり笑う 青い空に
二人歩く 夏の午後に。
 

アンニュイ

目を覚まして

点滅する携帯から
天井に視線を移すと

カーテン越しの夏の光に
光と影が混ざって

静かなグラデーションを
映し出していた

時計の針が

視力の無い目に
一本、滲んで見える

ああ、12時か

そう呟いて徐に
布団を脚で壁際に寄せ

横になったまま
大きく背中を反らせて

伸びをする

少年の声、車の音
色とりどりの生活音

一人きりの部屋

まるで

時間を気にすることなく
恋人と戯れて

怠惰に遊び眠ったあとの
午後のようだった

力が抜けたような
深く長い溜息を吐いて

ふと、横を向いて見ると
やはり誰も居ない

僕はそのまま
また、天井を見上げる

誰かと目覚めた朝は
よくこうやって

額に手の甲をあてたまま
ポツリ、ポツリと

他愛のない会話を
二言、三言交わして

「今日どうするの?」
などと聞かれても

「どうしよう」 と
無責任な返事をして

束の間の平和を
引き伸ばしては貪った

まさか、一人きりで
この空気を味わうとは

一日の始まりから
調子が狂ってしまう

アンニュイ
これは救われないな。

深呼吸

誰も彼もが急に

自分より賢く見えて
気後れする夜は

明かりを消した
真っ暗な部屋に立ち

ゆっくりと大きな
深呼吸をする

過去に縋って
後ろを向いた自分に

何かを

生きるための何かを
継ぎ合わせなければ

いけない

今まで、それは
恋であり、友情であり

夢であり

見るからに
美しいものに違いないと

思い込んでいたけれど

案外
コップ一杯の水や

ドアを開けて
最初に吸う空気や

身の回りに

昔からあるような
簡単なものかも知れない

時間も、笑顔も
まだまだ余裕がある

きっと大丈夫。

parallel world

僕の目が
見ている世界

僕の耳と
会話している人々

それは

紛れもなく
そこに存在する

けれど

人の数だけ
真実が存在する中に

絶対的な何かを
探ろうとする僕は

今日もひとり

やり場のない焦燥に
追い立てられる

真実も、世界も

そこに介在する
人の数だけ

存在している

だとしたら

精一杯
「いま」 を歩く以外に

美徳とするべきものなど
どこにあるだろう

僕は何に
甘えているのだろう。

夢の本質

夢は実現することが大切なのではなくて、
持っている状態そのものに意味があるのだと思います。

夢があるということは、希望があるということ。

希望があるということは、人間が人間らしくいるための
最低の条件だと思うのです。

social distance

誰かの言葉に

見え透いた
良い社交辞令だと

心で失笑しながら

どこか、その言葉に
そのひとの長所のような

善意のようなものを
感じてしまい

痛く感心してしまう

どうやら僕には
そんな癖があるらしい

けれど

それは
僕自身にとっては

良いことばかりとも
言えないようで

お世辞は
所詮、お世辞なのだ

現実を忘れて

過剰な期待だけが
一人歩きを始めると

大抵の場合

気が付いた頃には
手に負えないことになる

愛想笑いの奥に

「友達」 という
便利な言葉の裏側に

ただ息を潜めて
静かに隠れている

人間という動物の
利己心と汚さを

知っても、なお
人を好きでいられるか

そこからが
出発点なのだろう

いくつもの
美しい笑顔と、言葉と

苦い経験を並べて

ふと、そんなことを
思った。

平凡な毎日

気紛れに止まる
空調の音が

いくつもの迷いで
満たされた部屋に

静寂を誘い込む

平凡な今日が終わり
明日が来る

たったそれだけを
怖がる僕が

フラフラと横になり
枕の高さを悩んでは

壁に沿って

小さく丸めたカラダを
さらに小さくする

明日が始まることに
疑問を抱かない人や

文句を言える人は
幸せだと、思う

ただ迷い、恐怖し

惨憺たる心持ちで眠る
僕のような人が

今年はこの国にも
たくさんいるだろうから

冗談や偽善ではなく

みんな幸せであれ
毎日よ平凡であれ、と

強く願うこめかみを
枕に押し付けた。

言葉の源泉

何も書く気が起きない
そんな夜は

「今日は書けなくていい」

きっぱりと
そう思える自分になれたら

どれほど
気持ちが楽だろうかと

ときどき、考える

詩も、歌も、句も、曲も
こうして書き散らす駄文も

大した違いはないし

誰かからお金を頂いて
書いているものでもない

書かなければ
創らなければ、と

焦っている時に限って
往々にして

人生のどこかで出くわした
素晴らしい文章を

曖昧な記憶で
へたくそに模倣して

とんでもない駄作が
出来上がるもの

僕が書くものは
「僕」 を表現していなければ

何の意味も成さない

その時間を生きた証には
成り得ないのだ

書けないことが苦しければ
読むのはどうだろうか、と

古い文学小説をめくり

友人の撮った写真に
胸を打たれる

そして、気付いた

言葉は
覚えなければ喋れない

創作もきっと
最初に感動がなければ

生まれないのだと。

前髪の注文客

胸下で
ワンレンに揃えた

髪の扱いに

この夏になって
少し難渋していたので

今日

病院の帰りがけに
美容室へ寄って

10cm以上も
バッサリと切ってもらい

左右の前髪を
作ってもらった

試しに括ってみると

確かに
前髪があるほうが

気分的にも、見た目にも
すっきりとしている

伸ばすのも
貴重な体験だけれど

こんな長さを切ったのも

恐らく
生まれて初めてだろう

自分の頭に
昔から生えているものだけで

こんなにいくつもの
初体験を

経験できるとは
夢にも思っていなかった僕は

思春期の生徒のように
髪と手鏡を付き合わせ

あれこれ思案しては
ひとり納得していた

人の髪型を創る

美容師さんというのは
本当に器用な人たちだと

心から思った。

止まった時計

ここ数日

自分から
逃げたつもりになり

またしても

気まずい空気を
漂わせた挙げ句

現実に戻ってきた

療養生活を
始めて以来、僕は

「友人が離れてゆく」
「セカイが変わってしまった」 と

思っていたけれど

友人たちが
年齢に相応しい姿なり

年相応のかたちで
人間関係を再構築するのは

二十代から
三十代近くにもなれば

当然のこと

毎日同じような生活で
一日も十年も変わらない

時の止まった
僕の感覚のほうが

ズレているのだ、と

今更になって
ようやく少し

気付き始めた

恍惚としたお祭り騒ぎと
ウツの自己嫌悪の中でも

少しずつ

友人たちの過ごしている
年相応のセカイと

その感覚に
近づきたいと、思う

変わる努力をしてこそ

去って行った
仲間たちの気持ちが

分かるのだと、思う

鳴らない電話を
今日も持って出かけよう。