Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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記事一覧

耳を澄ます夜

台風情報を横目に
椅子から立ち上がる

外は暴風雨

大蛇が暴れているような
怖ろしげな音がしている

生活音以外で、窓越しに
こんな大きな音を聞くことは

そう滅多にない

抗生物質とビタミン剤に
サプリを一通り飲んで

布団に入ろうか思案する

携帯をいじくりながら
そのまま寝てしまうのも

すっかり常習犯

この分だと明日も
家に缶詰めだな。

悲愴な沈黙

エアコンも出番が減って
すっかり静かな夜

やることの無い僕と
僕を乗せて回る地球

何て悲愴な時間だろう

存在感を示しているのは
掛け時計の秒針の音と

時折、ゆっくり吐き出す
僕の溜め息だけ

もうすぐ夜が明ける

また徹夜に
なってしまったな。

透明なゴール

疲れた

そう思うことにも
疲れてきた

恐らく今あたりが
ウツの底なのだろう

人間が煩わしい

そう思う自分自身も
また煩わしい

生活も、煩わしい

そんな中で
痩せたい、綺麗になりたいと

一生懸命にサプリを飲み
スキンケアをして

律儀に服を全部脱いで
体重計に乗る僕は

どこか、壊れていると思う

物事の優先度とか
いわゆる生活とかいうものが

どこか、歪んでいる

それでも僕は
錠剤の数を律儀に数えて

クスリやサプリを飲む

綺麗になって
誰に見せるんだろう

誰が褒めてくれるんだろう

僕のリアルには
父と主治医しか居ないのに

苦いな。

頬杖

クレンジングを済ませて

これでもかと言うほど
化粧水を塗りたくった

大人ニキビは
一箇所は小さくなってきたけれど

アゴの下にまた
新しくできてきている

頬杖をつくのが悪い

原因ははっきりしているのに
頬杖がやめられない

体中のアクネ菌を
一瞬で死滅させるくらい

強力な抗生物質が
あればいいのに

でも、それを飲んで
もし僕が死んでしまったら

僕はバイ菌だったことに
なってしまうなあ

なんて考えつつ
野菜ジュースを飲む

ダメな時は
何をやってもダメなもの

肌も、人生も。

動機不純

エアコンを止めて

抗生物質とビタミン剤と
サプリ一式を口に放り込み

着替えて寝支度をする

こんな時間でなければ
普通のことなんだろうけど

これから一日が始まる

ちょうどその境目で
スイッチを切り

眠ってしまう僕は

社会的に見ても
動物として見ても

やっぱり
おかしいのだろう

人の目や言葉を
いちいち気にするほど

可愛い性格でもないけれど

眠る動機が
クスリの吸収率を高めるため

だなんて

眠いからでもなく
疲れたからでもなく

この不純な動機
やっぱり病んでる。

流れ出す意識

午前三時半

カラダから
じんわりと意識が流れ出す

それは

僕の心の毒を
吸いに吸って濁りきった

汚水のようで

ゆっくりと
この美しい星を

汚染している

何が起こったのか
何を食べたのか

そして何を思い
何を考えて何に感動したのか

人間不信と
自分への疑惑にまみれた

毎日の中

僕が生きたという証明は
自分の記憶しか無いというのに

薄い砂糖水のように
記憶もまた薄まるばかり

愛情が欲しいと
強く思う

偽善の押し売りや
自己満足ではない

まっさらな愛情が

真っ暗な
部屋の中にいるのに

白く見えるはずもない壁を
白いと錯覚している僕は

何を信じれば
安心できるのだろう。

冬、巡るこころ

十月になった

月の変わり目を
告げるような雨が

昨日は一日中
降り続いていた

もうすぐ、冬が来る

気温が下がるにつれ
家族全員で

母のために闘った
15日間を思い出す

病院からの緊急連絡
霜が降りる寒さの中

連日早朝に目覚ましで起きて
病院に向かい

母の世話を焼いたり
ベッドの傍に座って

過ごした二週間

そして
容態急変の知らせと

駆けつけた時
すでに命を失っていた母

訳も分からないまま
葬儀屋さんの言う通りに

納棺を済ませたり

諸連絡や、葬儀に
参席して下さった方への応対

そして母の火葬

大好きな冬は
別れの季節でもある

僕にとって
僕の愛した人にとって

「去る者は追わず」
なんて言っているけれど

追うことなどできない
逃れようのない別れもあるのだと

僕は思い知らされた

あと数ヶ月で
一年が巡る

また、何も持たずに
生きながらえた

本当に月日は早かった。

水のように、空気のように

僕たちは
ひとりひとりが欠片で

運命の人と出会って
初めて一人の人間になる

そんなことを言う人がいる

「一人の人間」 なんかに
なってしまったら

それを
真っ二つに引き裂くような

別れ際の苦しみは
どれほどだろう

人は生まれたときから
誰もが 「死」 に向かって

歩き続けている

どちらかが死ぬまで
添い遂げたとしても

いつか別れの時は
静かに訪れる

別々の人間同士の別れさえ
胸を引き裂くほどの

痛みを伴うのだから

僕は、自分を欠片だなんて
思いたくないし

他人を
ひとつの欠片だなんて

到底、思えない

「気がつけばいつもそこに居る」
そんな関係がいいと思う

水のように、空気のように

意識しなくても
相手がそこに居るんだと

強く感じる気持ち
それを持ち続けていたい。

この星にある「何か」

とりとめのない空虚感が
じんわりと

エアコンから漏れている

僕のいちばん苦手な時間帯は
通り過ぎた

今夜はクスリを飲んでも
眠れる気がしなくて

ブックマークをしては
溜まっていく一方の読みものを

漫然と消化していた

秒針の音はゆっくり響き
じっくりと聴けば

加速しているようにも聞こえる

光らない携帯
生温く部屋と同化した

ペットボトルの水

大切なものが何かを分からずに
「何か」 を大切にしたがっている僕

こうして
ゆっくりすれ違い離れていく

惑星と僕の距離。

にわかに秋めいた朝が
早く見たい。

キャパシティ

人間関係は

自分のキャパシティを超えて
大きくなってはいけない

ふと、そんなことを思った

関係を広げているつもりの
自分が、逆に

世界から浸食されている

息が詰まりそうになって
あるいは

詰まってしまってから
初めて 「しまった」 と思う

僕は困り果てる

中学生くらいなら
廊下を 100mも走れば

自分の知る
ほとんど全ての人と

直接
やりとりをすることができた

けれど、大人になった今
僕の 「リアル」 は失われ

ネットワーク越しに文字で話し
携帯のボタンを押す指先に

どんなに
気持ちを込めようとも

「自分側」 と 「相手側」 の
温度差は埋まらない

だから
手の届かない範囲まで

流れてはいけないと思う

世界があると知っていることと
世界を体験することが

別物であるように。