Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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不器用な愛し方

去っていく友人を
見送るたび

安心感を感じていた

欠陥だらけの性格と
コントロールのきかない病気で

もう、大切な人を
傷付けずに済むと思った

けれど

寂しがり屋な自分の
「本能」 のようなものが

音信が途絶するごとに

耐え難く、鋭い痛みを
心に打ち込んだ

僕は今日も
光らない携帯電話を

大事そうに手元に置いて

いつもと何も変わらず
紅茶に口を付ける

光ればいいのに

本当は失したい人なんて
一人もいないのに。

どうでもいいもの

花粉症にやられて
真っ赤に充血した目は

まるで
泣きはらした後のよう

部屋のあちこちに
散乱しているものが

オレンジの薄明かりの中

ひとつ、またひとつと
「どうでもいいもの」 に変わる

記憶は

忘れてはいけないものばかり
忘れるようにできている

あれもこれも
宝物、だったのに。

幸せと激痛

人は必ず
幸せの上を通る

それが
たとえ一瞬だったとしても

長い年月だったとしても

そしていつか
その幸せな時間を振り返る

回想する時間は
楽しいものだろうか

それとも
辛いものだろうか

僕にとって
過去を思い出すことは

それが
人生を否定することだとしても

激痛でしかない

「幸せな今」 に基づかない
過去のストーリーは

どれだけ幸せに溢れていても
相対的には悲劇でしかない

こんな発想が
空虚感を加速していると

知っていても
止まらない、たぶん

幸せの真上にいる時だけ
調子のいい奴、か

軽い人間、だな。

降り積もる記憶

暴風雨らしき
音が聞こえる中

頭の後ろで手を組み
天井を見ていた

ふいに

ある雨の午後
同じようにして

誰かと天井を見ながら話す
過去の自分が蘇り

僕は混乱して
反射的に身体を丸めた

幸せは
どんどん逃げていくのに

それを記憶する身体は
交換がきかない

それは
幸せなことでもあるし

残酷なことでもある

知らなければよかった
あんなに温かい感情。

ハートマーク

まだ暮れない日

布団に潜り込んで
見飽きた景色に溶かされる

色ならば、白

今日も音が消えてゆく
あくびの数を追うように

何処かへ、行きたい

誰かがまだ僕を見ているか
もう見捨ててしまったのか

そんな些細なことを
気にしなくていい場所へ

メールに並ぶハートマークは
社交辞令

醒めた目で読み飛ばす

必要なら今すぐその手で
この心に触れに来て。

雨粒

傘に撥ねる雨音を聴きながら
歩く街は楽しい

信頼、無くした
友達、かなり無くした

恋人、無くした
自信、すっかり無くした

たかだか
ボトル一本の白ワインのために

この優しい雨の日を
汚すということが

堪らなく後ろめたくて
爪先で水溜まりを遊ぶ

サラダはまだかな

お客さんたちには
今日も笑顔が咲いている。

コンクリートに抱かれて

眠れない夜に

ベッドの上
壁に背を預けたら

だらりと伸ばした両腕の
間に髪を埋める

真っ暗な部屋に
絶え間無い雨音が

優しい

ふと手に掴んでいた
紅茶のペットボトルが

あてどなく床へ転がった

その様子が
あまりにも自分に似ていて

僕は曖昧に失笑する

愛されたい
何だって差し出すから

ナリフリ
構ってられないんだ。

甘く冷たく

「淋しい」 と

笑いながら食事をする
恋人や家族連れに向かって

呟く

いつもとは銘柄の違う
少し甘すぎるワインを

一気に飲み干す

外は雨、家は留守

電話で話す友達に
随分と迷惑をかけながら

たどり着いたのは
昨日と同じ席だった

幸せは
人に同調してはくれない

生温い氷の上を
ゆっくり滑るような感覚に

僕はいつまで耐えられるだろう

いつまで
作り物の愛想笑いの裏で

酔って泣けば
許されるんだろう。

一人の舗道

小雨の中を、病院まで歩いた

まだ風が強い
三寒四温どころではないこの春は

これから来る夏の元気さを
予感させるようだ

熱いコーヒーを飲みながら
待合室で時間をつぶし

昼食が待ちきれないような
主治医の診察を受けると

僕は薬局へと向かった

朝から

バナナしか食べていないお腹も
相当参ってきた

昼からワインでも流し込もうか

引きずる孤独も憂さも
ごまかせるかもしれない

徒歩で歩く一人の舗道は
淋しさが絡み付いて、痛い。

小さなスパイス

例えば
たった一つの電球が

部屋の色を
暖かなオレンジに変える

なければ 「ない」 で
済まされているようなことが

僕の人生を
ちょっとだけ、豊かにする

その 「ちょっと」 に

気づかないまま
何年も来てしまった。