Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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一年足らず

秋も終わりかけ

母が逝ってから初めての
冬を迎えようとしている

昨日は父が
慣れない PCに向かい

喪中ハガキの印刷をしていた

久々に向かい合って食べた
夕食の席で父は

遺品を処分すると

この家からお母さんが
いなくなるようで辛い、と言った

何十年も、家族として
一緒に暮らしてきた母

一年足らずで
思いが振り切れるほど

人は強くないはず

真夜中
誰にも聞こえないように

小さな声で
「お母さん」 と呼んでみる

返事が聞こえそうで
聞こえなくて

胸の奥がじんわりと
濁っていくような

気がした。

居るべき場所

二度寝するための
口実を考えていたら

眠ってしまい

目が覚めたら
午後になっていた

そして
おにぎりを食べると

あっという間に
夜が来た

世の中には
昨日の夜も、今日も

僕の百倍、千倍もの
仕事をしている人が

たくさんいるのに

二度寝の理由を
考えただけなんて

早く戻りたい
僕の居るべき場所へ。

刺さらない釘

結局、外出を断念して

煮込みすぎて具のふやけた
レトルトカレーを

食べる

どんなに
ひとりで空回りしていても

どんなに
孤独感と挫折感の中で

藻掻いていても

不思議なことに
おなかだけは減るらしい

昨夜は
一睡もできなかった

今日こそは寝ようと
自分に釘を刺す

まるで

ティッシュをよじった
フニャフニャの

こよりのような
釘を。

星に似る者

友達が
辛い思いをしている時

僕には父が

「熱いお茶を飲むか」 と
訊いてくれたりする

その逆もあるはずで

僕が父から
八つ当たりされている時

誰かは人生で最高に
幸せな瞬間を過ごしている

まったく

何という星の上で
生きているのだろう、と

僕は思った

美しいけれど残酷で
凍り付くけれど温かくて

まるで
人間そのものじゃないか

いや、人間は
この惑星から生まれたのだから

星に似てしまったのは
人間の方かも知れない

何もかもが、ごちゃ混ぜに
規則正しく回る世界

叶うなら

今夜の僕の幸せは
悲しんでいる友達のために。

バイバイ

僕は
「バイバイ」 という言葉が

どうしても言えない

恋人との別れ際は
もちろんのこと

友達との
電話を切る時でさえ

「バイバイ」 ではなく
「またね」 と言ってしまう

去る者は追わず、などと
傲慢な毒を吐きながら

実のところ、内心では
「人が去っていく」 ことが

もの凄く、怖い

それは
相手の中の 「僕」 が

消え去っていく体験であり

相手を通して
現実に投影された僕自身が

「薄まっていく」 怖さでもある

もしも
全てのひとが去ったなら

僕は、存在しているだけで
「どこにもいなく」 なる

そんな風に
人を失うことが怖くて

「バイバイ」 が言えない

この気持ちに
シンクロするひとは

たぶん、僕の知ってる中で
ほんの一握りだろう

「次」 があると
曖昧に予感を残して

安心した所で

何を繋ぎ止められるわけでも
ないけれど。

夜明け前の夢

机の上の時計に
3の数字が並ぶ

あと少し経ったら
新しい日が色付く

大切に思うひとが
たくさんいる毎日に

逃げ出して
しまいたい程の

寂しさが隠れている

ひとつ
また、ひとつと

部屋から光を奪って

静かに息を吐き
拙い夢を見る

たえず揺るぎなく
強い心であること

誰かを本当に
愛せる人になること

家族を養えるほど
健康で働けること

どれもこれもが
昔は当たり前だった

けれど、今の僕には
星よりも遠いことばかり

この星の上に

僕を
心から必要とするひとは

一体
何人くらいいるのかな

じりじりと
無力感に押し潰されて

枯れていくために
僕はこんな

こんなに長い
息を吐くのかな。

the game

惚れさせることは簡単だが
愛されることは難しい

「自分は調子がいい」
「何もかもうまくいっている」

そんな風に感じている時
僕らは

さも正しいレールの上を
走っているように錯覚するが

実際は
周到に、結末が用意された

ひとつの 「ゲーム」 に
興じているに過ぎない

そう思えば
恋だろうと人生だろうと

結局は、同じことで

人生そのものが
大きなゲームなのかも知れない

と思った。

宇宙の彼方

普通の人から見れば
怠けているだけの

それでも

僕にとっては
いつもより心持ち

忙しく、華々しい
一日が終わる

幾つもの縁と
たくさんの人たちを失い

突き放されたり
切り離したりしながら

ロケットのように
僕は

どこまで
飛ぶつもりなのだろう

どこまで
飛べるのだろう

辿り着く先が
真っ白な

本当の闇であるなら
いいのに。

冷たい背中

真っ暗な部屋の
僕の定位置

ベッドの上

部屋の隅っこに
膝を抱えて座った

暗い部屋の中で

冷たく吹き下ろす
空調の風と

明々と光を放つ
いくつかの液晶だけが

異質に感じられ

その違和感が
静かに響く歌声

「ロング・バージョン」 で
見事に中和されている

こんな風に
静かに過ごす時間が

今の僕には
何よりも幸せで

もしも、今
恋人を作るとしたら

真っ暗な部屋で
無口にワインを酌み交わし

時々、視線を合わせては
静かに笑い合って

疲れたら
お互いにしなだれかかり

やがて眠ってしまう

そんなひとが
いいと思った。

魔法の言葉

「大丈夫」

いつの頃からか
それが口癖になっていた

大丈夫、なんかじゃない
いつだってそう

僕がカラ元気でいれば
みんなの心配が

ひとつ減るから

自暴自棄の末の醜態を
誰にも見せなければ

「忙しかった」 の一言で

誰にも心配させずに
時間を進められるから

そんな風にして
色々な感情と闘っている人は

きっと多いはず

人に言ってあげれば
お守りのようになる

魔法の言葉を

いつしか自分のために
自分を隠すために

使うようになった

僕はその時点で
もう、大丈夫なんかでは

なかったんだな。