傘に撥ねる雨音を聴きながら
歩く街は楽しい
信頼、無くした
友達、かなり無くした
恋人、無くした
自信、すっかり無くした
たかだか
ボトル一本の白ワインのために
この優しい雨の日を
汚すということが
堪らなく後ろめたくて
爪先で水溜まりを遊ぶ
サラダはまだかな
お客さんたちには
今日も笑顔が咲いている。
Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私
傘に撥ねる雨音を聴きながら
歩く街は楽しい
信頼、無くした
友達、かなり無くした
恋人、無くした
自信、すっかり無くした
たかだか
ボトル一本の白ワインのために
この優しい雨の日を
汚すということが
堪らなく後ろめたくて
爪先で水溜まりを遊ぶ
サラダはまだかな
お客さんたちには
今日も笑顔が咲いている。
眠れない夜に
ベッドの上
壁に背を預けたら
だらりと伸ばした両腕の
間に髪を埋める
真っ暗な部屋に
絶え間無い雨音が
優しい
ふと手に掴んでいた
紅茶のペットボトルが
あてどなく床へ転がった
その様子が
あまりにも自分に似ていて
僕は曖昧に失笑する
愛されたい
何だって差し出すから
ナリフリ
構ってられないんだ。
「淋しい」 と
笑いながら食事をする
恋人や家族連れに向かって
呟く
いつもとは銘柄の違う
少し甘すぎるワインを
一気に飲み干す
外は雨、家は留守
電話で話す友達に
随分と迷惑をかけながら
たどり着いたのは
昨日と同じ席だった
幸せは
人に同調してはくれない
生温い氷の上を
ゆっくり滑るような感覚に
僕はいつまで耐えられるだろう
いつまで
作り物の愛想笑いの裏で
酔って泣けば
許されるんだろう。
「愛され方」 を
知っている人たちを
ときどき
とても羨ましいと、思う
誰かが自分を
愛そうとしてくれているときに
その気持ちを
上手に受け取れる人は
幸せだと、思う
僕は人を疑うことに
人の内面の底まで疑うことに
慣れてしまった
子供のように
喜んで愛を受け取れる
そんな素直さが
もう一度、欲しい。
今日
無くすものの数
先月
無くしたものの数
去年
無くしたものの数
今までの人生
無くしたものの数
その数の多さに
新しく得るものへの
期待も希望も
塗り潰されてしまう
ときどき、そんな弱音に
足をすくわれてはいるけれど
希望を捨てるということは
生きることをやめること
身体が生きていても
心は、死んでしまうということ
僕は生きたい
まだまだ、もっと生きたい
だから捨てられない
どんなに過去が
美しいものばかりのように
見えたとしても。
誰かを
大切に思うあまりに
その人を
遠ざけてしまおうとする
そんな癖が
昔から僕にはある
自分と一緒にいれば
いつかその大切な人が
大きく傷つくような
そんな気持ちがして
僕は道化になり
哀れな
見え透いた茶番を
演じ続けてきた
遠い将来の
危険を回避できた、と
僕は勝手に思い込む
けれど
本当にそうなのだろうか
本当はその人は
傷ついたとしても
僕と過ごしたかった
そうだったのではないか
分かれ道は
考えるほど、無数に見えて
どの道を進んでも
両手が罪にまみれてしまう
信じて欲しい
僕は大好きだったんだ、と
閑散とした
携帯の電話帳に呟いても
何も戻ってはこない
自分で壊したんだから
自業自得って
残酷な言葉だな。
隣家の犬の吠える声
子供の走る靴音
マンションという
この巨大な 「人間の巣」 は
賑やかだけれど
お世辞にも楽しくない
生活音で溢れている
雨の日くらいは
静かに紅茶でも飲みながら
過ごしたい
そう思うことは
贅沢なことなんだろうか
この喧噪に
平気で耐えられるほど
僕は忙しくもないし
強くもない
そう思う端から
飛行機が飛んで行く。
何をするでもない
時間の隙間隙間から
湧き上がる
「破壊」 への衝動
壊す対象は
もちろん、僕自身
それは何も
大げさなことではないけれど
ニックネームを
がらっと変えてみたり
サイトをサーバごと
引っ越してみたりして
折角、僕の書いたものを
読んでくれていた人を
引き離してしまう
僕はきっと
自分が今の状態でいることに
納得していないんだ
自分はこんなんじゃない
こんなはずじゃないのに、と
思いながら
毎日を過ごしているから
何度壊して
新しく作り直したところで
砂の城
立派な本物の城には
変われない
この世界に
あと、何人くらい
僕を必要とするひとが
残っているんだろう。
ふと、リビングに出て
ミニコンポを眺めた
このコンポは
古いコンポが壊れて
カセットテープが聴けないと
母がぼやいていた時に
躁転した勢いで
電気屋さんにある中から
カセットデッキのついたものを
突然のように買い
しかも、お持ち帰りで
突然家に持ち帰って
母にプレゼントしたもの
母はとても驚いたが
操作が難しかったのか
カセットデッキはあまり使わず
CDと MDのほうを
退屈な闘病生活の中で
大いに活用してくれた
家は母がいた頃のまま
だけれど
家の空気は
すっかり変わってしまった
僕自身も
なにもかも。
上の階から
ピアノの練習をする
音が聞こえる
決して上手ではない
曲にすらなっていない
けれど
納得のいく
演奏ができるまで
あるいは
ミスを修正できるまで
何度も同じフレーズを
弾き直し
疲れてくるのか
ときどき
違うずっと簡単な曲が
少しだけ挟まっている
僕も幼い頃
練習をサボっては
先生の前で譜面も見ずに
好き放題に弾いては
笑いながら叱られた
カンペキに
弾きこなしてしまうより
こんな辿々しい試行錯誤で
鍵盤を叩くほうが
ずっと人間らしくて
芸術性が隠れていると
思いながら
その音色に
しばらく耳を傾けた。