Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私


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溢れる気持ち

母に少しずつ
お茶を飲ませながら

身重の義理の妹の
大きなおなかを見て思う

三十年ほど前には
母もこんな風にして

おなかの中にいる僕に
話し掛けたり

手をあててくれたりしたんだ

そう思うと
「ありがとう」 という気持ちと

「ご苦労様」 や
たくさんの 「ごめんね」 が

心に溢れて止まらない

息子たちはもう大人だから
自分の心配だけすればいいよ。

緊張感

今日も母は
安定していて

意識もまあまあ
はっきりしている

半日だけ会社に出た父も
合流した

何事もなく
ただよく寝るだけだが

数値では末期癌で

何日か世話しているが
今だに信じられない

母がよく喋ってくれると

嬉しくて
張り詰めている緊張が

解けそうになる

いつ何があるか
分からないんだから

悔いの無いように
体調をキープしたい

腰と肩がバシバシ。

アラーム

目覚ましに起こされた

昨夜は一度も
目が覚めなかったせいか

今日は比較的
カラダが怠くない

父に無理をしないよう
声をかけて

送り出してあげた

外の風は冷たい
父の気持ちも骨身に染みる

マーガリンが無くなって
塗るものがなくなったパンも

たまには悪くない

今日はひとあし
早く病院へ行こう。

胸中

母に夕食を食べさせて
鎮痛剤のモルヒネを飲ませ

今日も全員帰宅した

看護師さんに
歯磨きをしてもらった後

舌っ足らずの大きな声で
「ありがとう」 と言う母

上体を起こすだけで
呼吸が苦しいのだから

喋るのも一苦労だろうし

就寝前の挨拶ぐらいは、と
力を振り絞ったのだろう

食事をさせてもらっていることも
歯を磨いてもらっていることも

きちんと分かっている
けれど、分かっているだけに

朦朧とする眠気の中で

母が自分の境遇や
喋った言葉が伝わらないことに

その都度どんな思いを
しているのだろうと思うと

胸が痛い

明日は父が
どうしても会社に

顔を出さないといけないらしく

半日くらいは
弟夫婦と僕と祖父母で

見守らないといけない

会社から病院までは
すぐに戻れる距離ではないし

父が一番献身的に
母の看病をしているので

せめて父がいない時間は
何事もなく過ぎて欲しい

明日も早起き。

点状出血

母は今日もよく寝ている

血小板がほとんど無いので
皮膚に点状出血が出てきたが

朝、少し痛がった以外
大きな変化はない

食事や検温のたびに
寝ている所を起こされるのが

ちょっと気の毒

楽そうな寝顔を見ながら
この立派ないびきが

一秒でも
長く続いて欲しい、と

祈る。

週間天気予報

二度寝して
寝坊しそうになり

祖父母と話しながら
食パンを焼く

マーガリンが無くなっている

いつも買い物をする父が
今は母に付きっきりなので

買い出し係の弟夫婦にでも
伝えておこう

脳血栓の検診をするために
祖父母が

終末までには
一旦、帰阪する予定なので

祖父と自室でモニタを見つめ
週間天気予報を睨む

今日、明日あたりは
降りそうだけれど

土砂降りでもなさそう

自分のクスリも
しっかり飲んでから

母の病院に行こう。

また、一日

今日も一日
母の容態は持ってくれた

看護師さんが
歯磨きをしてくれたので

おやすみを言ってから
帰ってきた

個室に移すことも
有料だができると

病院側は言ってくれたが

まだ母の意識はあるので
突然、個室に移されたら

自分が悪くなったと勘づいて
辛くなるかも知れないと思い

本当に危なくなるまでは
今の相部屋でいいですと返事

自分のカラダは
今のところ夜まで座っていても

なんとか平気

気持ちだけ言えば
ウツが酷くて動けなくても

病院まで運んで欲しい。

暖かい火曜日

今日の母はよく喋る
食事も驚くほど食べるし

暑いから喉が渇くのか
よく飲む

これが余命数週と宣告されている
末期ガンの病人なのかと

騙されているような気分

それでも
血圧は確かに下がっている

突然何が起こっても
パニクらないように

心の準備ばかりをして
時間が流れる

駄目になるなら
母が少しでも苦しまずに、と

そればかりを思う。

ルール

6時半起床

風邪がほとんど治ったからか
カラダはしんどくない

ウツもさほどでもなくなった
今日も病院に行ける

しかし最近の病院は

容態が急変するまで
個室に入れないとか

夜間の付き添いお断りとか
何かとルールが厳しい

昨夜、帰り際に
母に 「おやすみ」 と言ったら

「うんおやすみ」 と言っていたから
寝てるなら、まあいいか

さあ、支度して行こう。

余命

母の血液検査の
結果が出た

期待とは逆に
前回より悪化している

主治医から話があると言われ
父と弟と三人で別室へ

血小板の数が
健康な人の 15分の1 を

下回っている

もう、いつどこから出血しても
おかしくないデータで

出血したら止まらないので

脳や内臓などで出血した場合は
駄目でしょう、とのこと

全体的に見ても
有り得ない数字なので

だいたい悪くなって駄目になる方は
同じような感じです

と告げられる

最後に
意識がなくなり呼吸が止まったら

本人が苦しむ延命措置は
しなくていいですか、と聞かれ

抗ガン剤投与も

今きついクスリを入れるのは
トドメを刺すようなものなので

もうしませんが、いいですかと聞かれ
「はい」 と答える

祖父母に説明する
休憩室で

父が説明をしていると

隣に座っている弟が
泣き出した

それでも
兄が一緒に泣いていては

いけない

母に不安を与えないように
普通に明るく振る舞うことが

たまらなく辛い

持っても来週、再来週
いつも通りの息子でいてあげたい。