見慣れた暗闇は
気のせいか
少し哀しい色に
くすんで見えた
僕はゆっくりと
天井の中心に向かって
左手を翳した
この天井さえなければ
僕の瞳には
月が映っていた
かも知れないのに
栓無いことを考えては
失速する気持ちに
自分で
拍車を掛けながら
そんな自分が嫌いだ、と
思った。
Wish You A Happy Life
降り積もる 雪に未来を 踏む私
見慣れた暗闇は
気のせいか
少し哀しい色に
くすんで見えた
僕はゆっくりと
天井の中心に向かって
左手を翳した
この天井さえなければ
僕の瞳には
月が映っていた
かも知れないのに
栓無いことを考えては
失速する気持ちに
自分で
拍車を掛けながら
そんな自分が嫌いだ、と
思った。
こんな時には
あの人の
あんな顔が似合うだろうか
平凡だけれど
目まぐるしい毎日の隙間に
無造作に挟まれた
栞のように
友達だった人の
恋をした人の
自分を慕ってくれた人の
仕草や口癖が
鮮やかに蘇ってくる
あの人が
今ここにいてくれたら
と思う時
その人はもう
僕の手の届かない
どこかにいる
全てを過去にしたのは
僕の咎
二度と戻れないことは
分かっていたのに。
散乱したクスリ
ベッドの上のペットボトル
見飽きた壁たち
一人、光を放つ携帯電話
この部屋の中で
僕が 「毎日」 と呼んだものは
確実に
日々、変化している
その事にずっと前から
僕は気付いていた
ただ、質の低い生活の中で
蠢いているだけの毎日を
否定し続け
思うようにならない身体を
持て余しながら
空虚感と無力感の中で
僕は、夢を見てきた
昨日の夜明けと
今日の夜明け
どちらが美しいかくらい
この心に
はっきりと響いている。
湿度 52%
適湿になると
示し合わせたように
エアコンは動きを止める
「適切」 などという
言葉を聞くたび
この社会で適切なものなど
いったいどれ程あるのかと
僕は
自分自身の見るもの
五感のすべてを疑ってしまう
何もかも不適切
何もかもが、紛い物
見失った
「生きる資格」 を取り戻す術を
僕はまだ
見つけられない。
そして結局、僕は
見飽きた天井を
今またこうして見ている
部屋を一歩でると
街のあちこちに潜む
得体の知れない
透明な悪意に睨まれ
指先が凍り付くほど
何度も石鹸で洗ったくらいでは
僕は、綺麗にはなれない
耳の奥に
ヘッドホンを押し込んだ
深く、もっと深く。
もし
宇宙の果てまで
そうでなくとも
せめて
地球の裏側まで逃げて行き
そこで
生活することができたなら
人生は変わるだろうか
違う人と接し、違う物を食べ
違う言葉を話したら
僕を縛り付けて離さない
この鬱然とした気分は
何か他のものに
形を変えるだろうか
いつもの倦怠感と
鈍い偏頭痛に呼応するように
心の中の何かが
じんわりと痛んだ。
メールを打とうと
開きかけた携帯を
少し躊躇って閉じた
同時に
この説明のできない
理不尽な人恋しさが
母を失った余韻であると
僕は
認めざるを得なくなり
その直後
訳の分からない苛立たしさが
自分に向けて込み上げ
ペットボトルの水に
手を伸ばした
生きているものが
例外なく、必ず死ぬということを
納得できるまで
一体、何年かかるのだろう
その途方もない時間の長さと
いよいよ勢いを増した
孤独感を前にして
暗い部屋の中、一人
言葉を無くした。
広い公園の芝生に並ぶ
まだ咲かない桜の木々を
助手席の窓から
無機質な目で眺めた
写真をたくさん撮って帰り
母に見せると
とても喜んでくれた桜
この春は
桜を見せる人はいない
それでもひとり
桜の下を歩く気には
とてもなれなかった
美しい桜の木々は
たくさんの思い出と共に
僕を壊すだろう
その花が散るように
僕の夢も、孤独も
散ってしまうから。
ズキズキと痛む頭に
追い撃ちをかけるようにして
胃までもが痛みだした
偽薬と大差ないような
眠剤を飲み
寒い布団の中で
痛みと闘いながら
あの秒針の音と闘いながら
夜が明けるまでの
あと少しの間
どうやって
時をやり過ごせば
いいのだろう
こんな夜は初めてじゃない
けれど今夜は
身も心も、痛い。
「寂しい」
そう、強く思った
人とコミュニケーションを
取るためのツールは
山ほどあるのに
その中のどれを探しても
「人」 の存在が見あたらない
自分から電話をかければ
自分からメールを送れば
誰も嫌な顔をせず
応じてくれるだろう
けれど
それでは意味がない
こちらから何もしないとき
相手からまったく音信がない
ということは
相手にとって
僕は目下、必要ではない
ということにつながる
ただ
構ってもらいたい
というわけではなく
僕の心にある孤独感は
そのような
微細な関わり方の変化も
感じ取っているのかと
思った。